全中で陸上800mを1分56秒で走った中学生は、なぜ、たった3カ月で6秒も記録を更新できたのか?~りゅうきくんの話(中学編)
TRACK&FIELD STORY
- 800m -
走る能力が突然に
中1の春、彼は陸上部に入った。
「走ることが好きだ」という「自覚」はなかった。
「がんばろう」という気持ちも、そう強くはない。
彼の能力は、まだ地中深くにあって、誰の目にも触れなかった。
そのまま2年が過ぎた。
中3の春。
その能力は、突然に芽を出した。
5月1日、京都市中学校春季総体。
彼は男子800m決勝のレースで、これまでにない走りを見せた。
他の選手たちを大きく引き離して独走し、ぶっちぎりで優勝。
記録は2分02秒40。
この快挙に、彼のチームは大騒ぎになった。
観戦していたお母さんは、驚きやら感動やらで涙が止まらなかった。
お父さんは、これは大変なことになったと思った。
全中(全日本中学校陸上競技選手権)の男子800m出場資格は2分01秒。
もう少しがんばったら、息子は全中に出場できるんじゃないか?
ならば、とお父さんは思う。
できるかぎりの応援をしてやろう。
彼の足に合うシューズを買ってあげよう。
色々調べていると、ある店のブログを見つけた。
そこには、同じく800mで全中に出場を果たした男の子のことが書かれていた。
よし、この店に息子を連れて行こう。
思い立つとすぐ、その店に電話を入れた。
「2分切り」と「全中出場」
5月12日。
ご両親に連れられて、彼はオリンピアサンワーズにやってきた。
長身で細身で、優しい顔をしていた。
川見店主は、彼に聞いた。
川見店主:
「全中に行きたいよね?800mで2分切りたいよね?」
彼は、一緒に来た小さな妹の遊び相手をしながら、はい、とこたえた。
川見店主は、その立ち姿から、彼のランニングフォームを想像した。
川見店主:
「今の彼は、きっと下半身だけで走ってます。上半身も使って走れるようになれば、800mで2分を切れると思います」
お父さん:
「ホントですか!これから何をすればいいですか?」
川見店主:
「まずは『立つ・歩く』姿勢から改善しましょう。それに、大事な成長期ですから、食事のことも一緒に考えましょう。そして、彼の使用するシューズは、全部見直すことになります」
お父さん:
「わかりました、すべておまかせします。せっかく全中が見えるところまで来たのですから、息子にはとことんがんばらせてやりたいです」
目指すは、800mの「2分切り」と「全中出場」。
川見店主は、プラン(計画)を進めた。
姿勢を整えるトレーニング器具と、必要な栄養を補うサプリメントを用意した。
そして、ランニングシューズを2足、スパイクシューズを1足選び、オーダーメイド・インソールでフィッティングした。
特にスパイクシューズは、彼の走力を考慮して、「中距離」用よりもプレートがやや柔らかい「中・長距離」用を選んだ。
彼は、それぞれのシューズに足を入れ、履き心地を確かめるために、店内を軽く走った。
妹は、嬉しそうに、お兄ちゃんを追いかけた。
彼はイヤな顔ひとつせず、妹と一緒に走ってあげた。
それを見て、彼は優しいのだと、川見店主は思った。
3ヶ月で驚きの自己ベスト
その後、彼は胸のすくような快進撃をつづける。
6/18 京都市中学校選手権
男子800m 優勝
記録 2分01秒77
自己ベスト1秒更新、全中出場資格の2分01秒まで、あと0.77秒に迫る。
7/9 全日本中学校通信京都府大会
男子800m
記録 1分59秒88
自己ベスト2秒更新、ついに2分切りも達成、全中進出を決める。
◆ ◆ ◆
7月23日、ふたたびの来店。
川見店主:
「全中出場おめでとう!2分も切ったね!すごいね!」
彼は少し照れくさそうに笑い、はい、とこたえた。
お父さん:
「短期間でこんなにタイムがあがるなんて、ビックリしています。インソールの効果はすごいですね!このお店に来てホントによかったです」
川見店主は、彼の走りが安定してきたと判断。
全中で勝負するために、新たに「中距離」用のスパイクシューズをオーダーメイド・インソールでフィッティングした。
彼は、スパイクシューズに足を入れて履き心地を確かめると、満足そうに笑顔でうなづいた。
◆ ◆ ◆
その後も、快進撃はつづく。
7/27 京都府中学校総体
男子800m 優勝
記録 1分58秒73
自己ベスト1秒更新。
8/7 近畿中学校総体
男子800m 総合2位
記録 1分58秒86
8/22 全中(全日本中学校陸上競技選手権)
男子800m
予選 1分57秒23
準決勝 1分56秒91
自己ベスト2秒更新。
結局、彼はたった3ヶ月で6秒も速くなり、全中では準決勝にまで進出を果たした。
競技場にいるお父さんからは、いつも喜びの電話がかかってきた。
その声は、川見店主の携帯から周囲の人に漏れ聞こえるほど大きかった。
何が彼の能力を花開かせのか?
彼の能力を花開かせたのものは何か?
こんなエピソードがある。
ある日の試合、800mのレース。
彼の体調は、すこぶるに悪かった。
棄権するしかないと思うほどだった。
でも、先生に頼まれた。
チームメイトでなかなか記録の上がらない選手がいた。
「アイツを2分切りさせるために、お前がレースで引っ張ってやってくれないか」
その子のためならと思うと断われなかった。
フラフラしながらも彼は走った。
懸命にチームメイトを引っ張った。
彼のリードでチームメイトは2分を切れた。
彼も自己ベスト記録を更新してしまった。
――この話を聞いた時、川見店主は謎が解けた気がした。
「自分」ではなく「誰か」のために走ってしまう。
「みんな」を喜ばせたいからこそ、がんばれる。
そんな「優しさ」が、彼の能力を花開かせたのだろう。
彼に、そんな「自覚」は、ないみたいだけれど。
(高校生編につづきます)
この記事は2017年8月に旧ブログで公開したものです。今回、それを加筆訂正し再公開しました。