故障で足を傷めた高校生が、たった1日で走れるようになったインソールとは?~三段跳び少女の奇跡(その2)
TRACK&FIELD STORY
-TRIPLE JUMP-
こんなものじゃない
彼女は、8年ぶりにオリンピアサンワーズにやってきた。
部活動に励む高校生らしく、肌は小麦色に日焼けしていた。
はにかんだ顔に、小4の女の子の名残があった。
お父さん:
「本当はもっと早く連れてきたかったんです。娘からはずっと『鶴橋のお店に連れて行ってくれ』と頼まれてました。けれど、なかなか機会がつくれなくて、かわいそうなことをしました」
川見店主:
「大きな震災もあり、たくさんのご苦労があったことと思います」
お父さん:
「そのとおりです。いろんなことがありました。そして、やっとここに来れました」
この8年間、お父さんは、ずっと彼女を応援しつづけてきた。
できるかぎり彼女が出場する試合にかけつけ、その姿を動画におさめた。
川見店主は、それらの動画を見せてもらった。
彼女の走る姿や跳躍のフォームは、想像していたとおりだった。
川見店主:
「上半身をもっとやわらかく、そしてカラダ全体をもっと大きく、のびのびと使えるようになれば、彼女はもっと記録を出せます」
お父さん:
「本当ですか」
川見店主:
「今でもこれだけ跳べるんですから、彼女の力はこんなものじゃないですよ」
「こういう話を聞きたかった」
川見店主は、彼女の足に向き合った。
がんばりつづけて無理を重ねてきた足だった。
足の痛みの原因が、どこにあるかを探った。
足を守るためのシューズを考えた。
川見店主は、幾度となく彼女に質問を投げかけた。
返ってくる言葉の中に、彼女の感覚をさぐった。
頭の中で、彼女の気持ちで走り、跳躍した。
そのイメージをとらえながら、彼女が最高の力を発揮するためのインソールを作った。
できあがったシューズを履いて、彼女は軽くステップを踏んでみた。
シューズは、足に心地よくフィットした。
足の痛みは、不思議と感じなかった。
川見店主は、時間が許す限り、彼女に、正しい姿勢での立ち方・歩き方や、カラダの柔軟性を高めてスプリントのフォームを改善する具体的なトレーニング方法を教えた。8年前、彼女のお姉ちゃんに教えたように。
彼女も、そのトレーニングを、その場で熱心に実践した。
お父さんは目を細めてその光景を見ていた。
お父さん:
「ああ、こういう話が聞きたかったんです。やっぱり来てよかったです。」
この日のフィッティングは終了。
彼女とお父さんは、ふたたび機上の人となった。
ウソみたい!な記録
熊本に帰った、その翌日。
彼女は、新しいシューズを履いて走ってみた。
苦しめられていた足の痛みは、どこにも感じなかった。
練習で久しぶりに300m走の記録を測った。
ウソみたいな自己ベスト記録が出た。
「ウソだろう」と、コーチがビックリした。
「ウソみたい」と、自分でもビックリした。
ふたりは、顔を合わせて言った。
「だって、昨日まで全然走れなかったのに!」
残された時間
5日後。
彼女はお父さんと一緒にふたたび来店。
その表情は明るかった。
お父さん:
「帰った次の日から走れるようになりました。もう足の痛みも感じないそうです」
川見店主:
「それは、よかったです!」
お父さん:
「インソールでこんなに変わるのですね。すごい技術です!かえすがえすも、もっと早くこの店に連れてくるべきだったと後悔させられます」
この日は、取り寄せておいた三段跳び用のスパイクシューズを、オーダーメイド・インソールでフィッティングした。
この時点で、全国インターハイ熊本県予選会は2週間後、南九州予選会は約1か月後に迫っていた。
残された時間はわずかだった。
川見店主には心配があった。
これから彼女の調子が上がっていけば、助走のスピードは速くなるだろう。
すると、ストライドが伸び、跳躍のリズムも変わり、これまでとは踏み切りの位置が合わなくなる危険がある。
ファウルを連発しては記録が残らない。
たった2週間や1か月で、彼女は新しい跳躍を身につけることができるだろうか?
川見店主は、そのリスクを彼女に問うた。
彼女は、キッパリとこたえた。
「大丈夫です。踏み切り位置の修正はできます」
こうして、1週間を費やした、シューズのフィッティングが終了した。
この30日後、彼女は、途方もない奇跡を起こす。
つづきます↓
この記事は2017年7月に旧ブログで公開したものです。今回、それを加筆訂正し再公開しました。