【陸上競技】三段跳び15m35cmを跳ぶ高校生は、なぜ、たった半年で記録を40cmも更新できたのか?~跳躍ツインズ物語(その3)
TRACK&FIELD STORY
LONG JUMP
TRIPPLE JUMP
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天国と地獄
中学時代は、おもしろいくらいに記録が伸びた。
出場する大会の歴代記録を、ふたりで軒並みに塗りかえた。
兄の活躍を地元の新聞が大きく報じた。
弟は全中(全日本中学校陸上競技選手権)にも出場した。
しかし、兄弟は、高校の2年間を、故障の連続で暗澹と過ごした。
そんな、双子の「跳躍ツインズ」が、高校最後のシーズンに賭けた。
男子三段跳 兄の戦い
6月某日。京都インターハイ。
男子三段跳。
兄は、予選で14m62cmの跳躍を見せ、総合2位で決勝進出。
つづく決勝の記録。
- 1回目 ○ 15m04cm(自己ベスト)
- 2回目 × ファウル
- 3回目 ○ 14m66cm
- 4回目 × ファウル
- 5回目 ○ 15m16cm(自己ベスト)
- 6回目 ー
この日、兄の跳躍は他の選手と次元が違っていた。
自身初の15m越えジャンプを連発。
これまでの自己ベスト14m95mを21cmも更新し、他の追随を許さない、圧倒的な優勝を決めた。
その2週間後、近畿インターハイ。
兄は、男子三段跳び予選を、15m12cmのロングジャンプで総合1位の通過。
決勝では、堂々3位の結果を残し、念願の全国インターハイへの進出を決めた。
男子走幅跳 弟の戦い
6月某日、京都インターハイ。
男子走幅跳。
弟は、予選を6m58cmの跳躍で総合13位通過。
つづく決勝の記録。
- 1回目 ○ 6m40cm
- 2回目 ○ 6m80cm
- 3回目 ○ 6m70cm
- 4回目 × ファウル
- 5回目 ○ 6m75cm
- 6回目 × ファウル
順位7位。
自己ベスト6m85cmに迫る跳躍を見せたが、あと一歩、近畿大会までには及ばなかった。
兄が跳ぶ時、弟は。
7月某日。
双子の兄弟と、お父さんとお母さんがご来店。
川見店主:
「お兄ちゃん、全国インターハイ進出おめでとう!ビックリ!すごい!」
兄:
「ありがとうございます!」
川見店主:
「弟くん、跳べたね!よかったね!」
弟:
「近畿大会にも進めなかったので、悔しいです」
川見店主:
「うん、その気持ちもわかる。でもね、ちゃんと記録を残せたってことは『競技』として成立したってこと。それに6m80cmも跳べたんでしょ?自己ベストのほぼタイ記録じゃないの。4月までほとんど走れなかったんだから上出来です。陸上競技はそんなに甘くない!」
弟:
「はい」
お父さん:
「もう1年早くこのお店に来ていたら、ふたりには、もっといい思いをさせてあげられたかもしれません」
川見店主:
「でも、お父さん、これだけ追い込まれた状況で、これだけ限られた時間だったからこそ、彼らも、お父さんもお母さんも、そして、私たちも、こんなにも一生懸命になれたのではないですか」
お父さん:
「ああ……そうかもしれませんね」
この5か月の間、ふたりがどれほど真剣に自分自身に向き合い、命を燃焼させてきたか?
その充実感は、彼らの顔にハッキリと表れている。
その、ソックリなふたりの顔を見ていると、こんなことも思ったりする。
あのさ、お兄ちゃん。弟くんの調子が悪い時にはこっそり入れ替わってさ、代わりにお兄ちゃんが走幅跳びをやってもバレないんじゃない?
兄:
「それは無理ですよ(笑)。それに走り幅跳びに関しては、僕は弟にはかなわないですから」
弟:
「兄の全国インターハイが決まった時は、とてもうれしかったです。でも、時間が経つと、だんだん、『アイツだけいい思いをして……』って、ちょっと腹が立ってきました(笑)」
それぞれの試合を見ている時、ふたりはこんなことを思っているそうだ。
兄:
「弟がファウルしないように、と思ってます」
弟:
「同じです。兄がファウルをしないように」
兄が跳んでいる時、弟も一緒に跳んでいる。
兄の全国インターハイは、弟の全国インターハイでもある。
◆ ◆ ◆
その後。
兄は、夏の全国インターハイ男子三段跳で決勝まで進出。
秋の国体(国民体育大会)では、自己記録をさらに19cmも更新する15m35cmで少年男子2位の結果をおさめました。
(おわりです)
この記事は2016年7月に旧ブログで公開したものです。今回、それを加筆訂正し再公開しました。